こごみの旅日記

旅でもらった思い出いろいろ

おじさん、今度は消しませんよ

今週のお題「怖い話」

 

 

怖いことはなかったんですが、妙な話です。

近所の大きな書店で、民俗学関係の本を見ていました。朝早かったことと、民俗学という種類ということもあって、場所はズラリと並んだ本棚の店の奥の方。まわりには誰もいませんでした。

 

しばらくすると、人がすっと視界の隅に入り、私の真後ろに立った気配がしました。一瞬ちらっと振り返って確認すると、古風なコートとハットをかぶったおじさん?おじいさん?が、背中をむけて後ろにある本棚を物色している様子。

 

で、私も自分の物色に戻り、そのまま夢中になっていると、後ろのおじさんが何やらぶつぶつと小声でしゃべりだしました。
(えっ…)

 

携帯でしゃべっているという感じではなく、完全に独り言のような。
本に夢中になって読み上げてしまっているのかも…と思って知らん顔をしていたのですが、真後ろなのでけっこう聞こえる。

 

そのうち、妙なことに気づきました。何を言っているのか聞き取れないのです。
日本語じゃない?と思ったのですが、英語とかなら何となくわかる言葉も混じっていそうだし、他の外国語にしてもイントネーションとか、雰囲気とか何となくわかると思うのですが、まったく何を言っているのかわからない。

 

気になって自分の本よりそっちの方に集中していたのですが、まったく意味不明。というか、言葉として頭に入ってこない。聞いたことのない音のような、呪文のような、不気味な言語の流れ…。

 

(ヤバい人なのかもしれない…)
と感じた私はそろりそろり、じわじわとカニのように横に移動してその棚の端まで移動しました。そして改めておじさんを観察したのですが、ごく普通の人。でもなんとなく古風で、死んだうちのじいちゃんが写真の中で若い頃着ていたコートに似ています。

 

その時、他のお客さんがこちらへ歩いてきました。なんとなくホッとしてその人を確認し、再び奇妙なおじさんに目をやると――いないのです。

えっ、えっ、
周辺を小走りで探してみました。目を離したのはほんの一瞬。その間に姿を隠せる場所などどこにもない。

怖いというより、不思議でならなくて、そのおじさんが見ていた本棚の所にもどってみました。
「太平洋戦争」に関する本が並んでいる棚でした。

 

あのおじさんが何だったのかわかりませんが、不思議だったのはその後のことで。
何となくこの一件を書き残しておきたくなって、wordに書いて保存していました。でもやはり書かない方がいいかもしれないと思いなおし、削除。

しかし、数日後見ると、文書は残ったまま。消えていません。
偶然だ、偶然。
そう思ってまた削除。

数日後、また登場しました。
wordがバカになっただけ、いや、私がバカになっただけ。

三度めでようやく消えました。

おじさんの存在も、パソコンのことも単なる私の見間違いやうっかりミスなのかもしれません。偶然が重なると不気味な話になるというだけのことなのかもしれませんが。

消えなかったのは、おじさんが怒ったから?それとも書いてほしかったから?
そんなふうに考えながら、何年ぶりに書きました。
おじさん、今回は消さへんよ。